不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
そのやり取りにディランは笑う。昔よりも随分表情が柔らかくなった。それも、今の妻のおかげなのかもしれなかった。
「お母様ーーー!その方だあれーーー?」
バルコニーから娘が叫ぶ。
その言葉に笑う。
「お母様を、ずっとずっと守ってくれていた騎士さまよ。ほら、ご挨拶しなさい」
そう言うとこくりと彼女は頷いて、とことこと階段を下りて走ってくる。
そして、少しだけ恥ずかしそうにわたくしの後ろに隠れる。
「よく、似ておられますね、サラ様に」
その声で、久しぶりに呼ばれた名前に胸がくすぐったくなる。
「あら、わたくしよりお転婆なのよ、この子。ほーら、ご挨拶して?」
肩を押すと、娘は俯きがちにおずおずとドレスの裾を持ち上げる。
「……初めまして、リリア=エリシアですわ。以後、お見知りおきを」
「よくできました」
頭を撫でてあげると、嬉しそうに娘ははにかむ。
するとディランもしゃがんで、娘と視線を同じくする。
「はじめまして、お姫様。ディラン=オリビアと申します」
「あなたは、騎士さま……だったの?」
「ええ。リリア様のお母様がお父様とご結婚されるまでお守りしておりました」
「騎士は、お姫様を守るもの?」
「はい、そうですよ」
「それじゃあ、リリアのことも守ってくださる?」
その言葉に、ディランは愛おしそうに笑った。
「……あなたがそれを望むなら、私が必要なときはいつでも駆けつけましょう、……我が君」
そしてディランは、リリアの左手をそっと取る。
「あなた様の忠実なる騎士として拝命奉ることを誓います」
そしてそこに、静かにキスを落とした。
するとリリアはいつものように、にぱっと笑って。
「―――許します!」
そう、声高々に告げたのだった。
END1.