不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
END2
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ようやっと、理解できた気がした。
彼が去ってしまった理由、もう二度とわたくしに会わないつもりでいること、もうあなたはわたくしの騎士ではないことも、綺麗にストンと腑に落ちる。
すべてわたくしの幸せを願ってのことなのだと。
「……でも残念だったわね。あなたは間違っているわ……」
小さく小さく愛おしげに呟く。もう二度と会えないかもしれない、そのひとに。
「わたくしの幸せは、エリシア王妃なんかになることじゃない。……あなたと一緒にいることが、わたくしの唯一の幸せだったのよ……」
だから、こんなのはディラン、あなたの独りよがりだ。
わたくしの幸せは、わたくしが決める。
わたくしの人生は誰に決められるものでもない。
涙を拭って、前を向く。
せっかく、あなたの気持ちが分かったのだ。
たしかにあなたと結ばれることは万にひとつの可能性もないかもしれない。
この国の未来、私と彼の身分差、エリシア王国との関係。
その全てが障害にしかならないこの恋は、あまりに無謀だ。
「……でも、だからってこのまま、もう二度と会えないままなんてそんなのは嫌」
どうせ叶わない恋ならば、せめて終わりは綺麗な思い出にしたいもの。
そして、本棚に本をもどす。
「……行かなきゃ」
ドレスの裾をもちあげて、わたくしは再び走り出した。
「――お父様!!ディランはもうオリビアの領地に帰りましたの!?」
王の間の扉を、警備の静止を振り切ってこじ開けて中に転がり込む。驚いたようにこちらを見つめた王は、ややあってため息とともに言葉を吐いた。
「……ディランには北に遠征に行かせることになった。いまは向かっている途中だろう。お前も、先ほど兄に会ったであろう。あやつの代わりに、だいたいふた月……お前の結婚式が終わるころまでそこで国境警備を取り仕切る」
「いまから追いかけて間に合うかしら!?」
「無謀なことを申すやつだ。ディランは昨日の夜中に馬を出した。途中、いくつかの都市へ手紙を届けるよう言っておいたから、いま追いかけようにもどこへ向かっているかは余にも分からん」
「そんな……!」
「会うのは式が終わってからでもよかろう。あやつに祝いの品をエリシアまで届けさせる」
「それじゃあおっそいの!!」