不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
二か月はたちどころに過ぎた。
その間、わたくしは走ってでも会いに行きたい衝動をぐっと堪え、式の準備に加え、花嫁修業に必死になることで気持ちを紛らわせていた。
……そして今日。式の前日。
わたくしと王、そして第一王位継承権を持つ一番上の兄は護衛や大臣たちを連れて城の前の広く美しいエントランスへと赴く。
ここで、ラフィン王子一行の到着を待つのだ。
基本、国同士の婚姻の場合、結婚式は新婦の国、新郎の国と2回執り行うのが通常である。
今回は我が国で先に式を挙げてから、その足で真っ直ぐエリシアへと発ち、到着した次の日にあちらでも式を挙げる。
なかなかのハードスケジュールにげんなりする。
それに加えてわたくしには果たさなければならないこともある。
(ディラン……)
わたくしは元騎士を探さなければならなかった。
城の門を王子一行が通過したというしらせが届く。それならばあと10分もしないうちにここへいらっしゃるのだろう。
どくん、と心臓が跳ねる。
落ち着かなければ、と思う。すっと深呼吸をして。
真っ直ぐにラフィン殿下と―――ディランが来る方向に目を向けた。
一行が近づいてくるのが分かり、わたくしたち王族以外は皆一斉に頭を下げる。エリシア王国の印を刻んだ馬車が数台と、その後ろに護衛の騎士たち30騎ほどがわたくしたちのいる位置よりもいくらか離れた場所に止まり、先頭に着いた馬車からひとりの青年が下りてくる。
それがラフィンだと分かった瞬間にわたくしたちも頭を垂れた。
配下の者と近づいてきた王子もわたくしたちを前にして恭しく頭を垂れる。
「お久しぶりです、アリア国王陛下」
「うむ、ラフィン殿下も。道中何事もなかったようでなによりだ」
そして皆が顔を上げる。
わたくしも目の前にいるラフィンを見上げ、笑顔を作る。
わたくしに気付いたラフィンも軽く笑顔を見せた。彼に会うのは2週間ぶりだ。この前、式の段取りの確認のために単身エリシアに赴いたのを思い出す。
わたしから視線を外すと、彼はもう一度国王に向かう。
「無事についたのも、陛下が私たちに精鋭の騎士部隊を付けて下さったからですよ」
そして後ろを振り向き、ラフィンは威厳をもって声を張り上げる。
「……エリシアの騎士のものたちよ、道中ご苦労だった!礼を言う!」
するとすでに騎馬から下りていた騎士たちは一斉に礼を返す。
その中に―――わたくしは、彼を見つけた。
(ディラン…)
久しぶりに見た彼は、最後に見た彼と寸分も違わぬ姿で礼を取っていた。
瞬間、泣きたい衝動に駆られる。
――ああ、今彼はここにいる。ちゃんと、ここにいるのだ。