不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く
「ねえ、見て!
サラ王女と騎士の―――――」
「ああ!ディラン様ね、オリビア伯爵家の!」
「ええ、今日もお二人とも本当に素敵ねえ、おとぎ話の中から出てきたみたい」
「国内外でもあのお二人は評判らしくてよ、なんてったって見目麗しいですし」
「あら、それだけじゃなくてよ?お二人とも剣術だけでなく才覚もおありですもの、毎日の勉強量も相当のものだとか」
「あら、ではアリア王国の未来も安泰じゃありませんこと?」
ほほほほほ、なんてお酒が入って気分がよくなったらしい貴婦人たちからたおやかな笑い声が漏れたところでわたくしとディランは顔を見合わせた。
聞き耳は良くないかもしれないけれど、向こうだってわざと聞こえるように言っているのだからどうしても聞こえてしまう。
「………だ、そうですわよ、わたくしの騎士(ナイト)さま」
「実際は勉強から逃げ回る姫を必死で説得するお可哀想な従僕の図、ですが」
「それならどうしてその『説得』をするのに毎回鞭(ムチ)を持っているのかしらね、あなたは」
「さあ、一体何のことか分かりかねますが」
今日は王家主催の舞踏会だ。時期的にもシーズンの締めくくりということで、この国の一年を通してもっとも大きな舞踏会だといえる。
ということで、貴族の紳士淑女はもちろんのこと、今年デビューの可愛らしいレディから老齢の知識人、果ては他国の来賓まで様々な上流階級の者が集まっていた。