生涯の人… 〜Dearest〜
遥はきっと、勘がいいからわかってるよね。

杏奈がヤキモチ妬いた事…。


だっていつもみたいに笑わない。

ただ…気まずそうに手を挙げただけ。


そんな態度されたら杏奈笑うしかないじゃん。



遥を苦しめてるのわかってるから、笑顔でいるしかないでしょ…。


小さく深呼吸して手を振った。

でも隣の百合ちゃんの視線が痛すぎて、すぐ前を向いたまま凪の手を握った。





凪ってね……。

何で杏奈が落ちてるかなんて知らないくせに、ぎゅっって握り返してくれるんだ。

この小さな手に……何度救われたんだろ。


いつも凪の手の温もりには涙が出そうになる。



もう1度ぎゅってきつく握り返したら、凪の優しさが流れ込んできた。





「慎二は後から来るみたいだから行っちゃおうぜ」


皆でご飯に行く事になって凪とついて行った。









「ちょっ、待って…」


急に誰かが腕を掴んで体が後ろに引っ張られる。







鼻を掠めたのは……あの切ない香り。

振り返ると真剣な顔の遥がいた。



「なっ……」

「ちょっと杏奈借りていい?」

「えっ、ちょっ、ちょっと…」




返事なんて言うより早く腕を掴まれた。

そのまま建物の日陰に連れて行かれて、壁に背中を突けられて止まる。


コンクリートで出来た壁はひんやり冷たくて、汗ばみ始めた体にはちょうど良かった。






「…ハァッハァッ…っ何…?急に……痛いよ」


遥を見上げたら額に汗が滲んで渋い顔をした。


「何は俺の台詞だ……あー…疲れた。ちょっと貸して」

杏奈のうちわを取り上げて扇ぐ風が流れてきた。

うちわでなびく遥の髪がふわふわって揺れて、ドキドキする…。


「何だよ、あの態度は……」




態度って…。

ヤキモチ妬いて改めて遥が好きだって自覚した態度だよ。

遥の事を見つめるのは杏奈だけがいいって思ったよ。



でも…そんな事言える訳ないじゃん。



遥を独り占めしたいなんて…、言える訳ない。

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