生涯の人… 〜Dearest〜
小さく頷いて顔を上げた。
琉晴を見たら玄関の方に目を向けてて…。
ゆっくり視線の先を追う。
「アン…遥来たよ」
詩衣の声に心臓が飛び出しそうにドキンってなる。
入口からビニール傘が顔を出して…。
背の低い女の人と遥が1つの傘に入ってる。
目眩がした…。
嘘じゃないよ。よく…、目を背けたくなる場面に出くわした時って意識が遠のくって聞いた事あるけど。
まさにそんな感じ…。
「遅くなってわりっ…」
肩の水滴を払いながらロビーに入ってきて還奈さんはちょこんと後ろに立ってた。
「おー、ええよ……っと、遥のモデルさんでええんよな?」
あっくんが皆の代表で聞いた時、遠慮がちに…イチゴみたいに赤い還奈さんの唇が開いた。
「初めまして、伊原還奈です。皆さんの足を引っ張らないように頑張ります」
白い肌にどんぐりみたいな大きな二重。
ふっくらした唇。
栗色の髪の毛に遥の肩位しかない身長。
お人形みたいな人。
還奈さんの第一印象は想像してた以上の可愛いさだった。
声も出なかった…。
「はじめましてー…えっと…、メイク担当の詩衣でーす」
「俺は敦、一応サブリーダーやねん…よろしくなー!」
皆の声が飛び交ってる。
遥が還奈さんを紹介するのを一歩離れた場所から見てる…。
頭の中は真っ白なのにドクドクって心臓の音だけは耳に響いてた。
下を向いてる杏奈の顔を覗き込む影が2つ…。
「こんにちは」
大きな瞳がくりって動いて還奈さんの瞳と杏奈の瞳が初めて交差した。
「こっ…こんにちは……あの…メイク担当です……伊原……杏奈です…」
「えぇー…?」
還奈さんは驚いた顔をしてニッコリ微笑んだ。
「すごい偶然だね!1文字しか違わないなんて!!」
返事が出来なくて…笑い返すのがやっとで…。
本当に笑えてたのかもわからない。