生涯の人… 〜Dearest〜
相変わらず人が多い渋谷駅。

遥は今まで約束の時間にぴったり来る事は1度だってない。


だから今日も遅れるに決まってる。ワクワクしてる杏奈の気持ちなんか知らずに、知らん顔してやって来るんだ…。






「…ったく、アイツの神経どうなってんの?」


約束の時間を30分過ぎた。
遥の携帯を鳴らしたって出る気配も感じない。



ただ…コールが鳴るだけで機械音が耳に響くだけ…。




半分諦めに近い感じで携帯を閉じた。

通り過ぎる人を見つめてたら、前にもこんな事あったなーって思い出した。


中間試験の時か期末試験の時か…。どっちだったか忘れたけど、遥と遊ぶ約束したのにすっぽかされた事があった。

あの時も杏奈はずーっと待ってて、しつこくならないように何回もメール出来なくて。


ただ嫌われるのが怖かったから…臆病になってたからいつまでも遥の事待ったりしてたっけ…。


結局「わりぃ…ごめんな杏奈」って言う遥の顔を見たら、何も言い返せなくて。

「うん…」しか言えなかった。




記憶がタイムスリップして過去に戻りかけた時、改札をくぐり抜ける彼が見えた。


学生の頃と変わらないかかとを擦る癖…。

いつもみたいに涼しい顔。



さっき思い出した遥と同じ。
悪びれた様子は一切なくて怒る気力もなくしちゃう。


「ごめん、ごめん。寝坊した。」



今日こそ怒ってやろうと思ったのに…。
ニッて笑った笑顔に肩の力が抜けちゃった。


…この笑顔に弱いんだ。

結局許しちゃう。




わかっててやってる遥は…。

本当にどこまでもずるい奴。


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