生涯の人… 〜Dearest〜
「あのねー…」
「ブーッ」
少しだけむくれた杏奈の頬っぺたを下から押さえる。
口から空気が漏れて…。
そんな顔されたら機嫌直すしかないじゃん。
ずるい…。
ずるい…。
「とりあえずさ、腹減ったからなんか食べたい。杏奈何か希望ある?」
「んー…あんまお腹空いてないから遥に任せる。」
「オッケ…。んじゃ、こっち。」
人の波を綺麗に避けて歩く遥の後ろを追った。
友達の距離で歩いてたら、さっきまでは曇ってたのに小雨がパラパラ降り出して。
「天気予報当たりー。杏奈傘持ってきたよ!」
バックから折り畳み傘を出して開いたら、当たり前なんだけど…、スッて遥が入ってきた。
杏奈よりも大きい身長で…。
「持つ…」
ってさりげなく傘持ってくれて…。
1つの傘に入りながら歩いた。
杏奈が濡れないように傘を傾けてくれてる。
そうゆう事しないでって気持ちと、嬉しいって気持ちが心の中でゆらゆら揺れて。
これって友達の距離じゃないよ…。ドキドキのリズムがあの頃と同じじゃん。
どうか遥に…、胸の鼓動が聞こえませんようにって強く思った。
遅い昼食を取ってから次に向かった先は映画館。
「映画見たくね?」
って遥が言い出して背中に触れる手がくすぐったい。
ドキドキが大きくなって、耳の先まで熱くなる――。
遥が選んだのは家族がテーマのお話。
チケットを購入してから薄暗い劇場に入った。
予告が始まってて背中を丸めながら遥に着いてった。
隣との距離が近くって…ごそごそ動く遥に反応しちゃう。
途中頭をかいたり欠伸をしたり。
足組んだり首を鳴らしたり。
遥の変わらない癖が見えてドキドキした。
その手に触れたい…。
そう思ってる杏奈がいた。