Because[短篇]
匡の背中越しに聞こえるよっちゃんの声の調子はいつもと同じなのに、何故か少しいつもと違うような、そんな感じがした。
「…匡?」
「志保はもう良いだろ。後はお前がやれ。」
って、何言ってんの!
あたしの仕事でもあるんだってば!
少し見上げた匡と
視線がぶつかる。
「お前は、俺が強制連行。」
「は?ちょ、ちょっと!」
少し怒りを帯びたその瞳。
そして微かに揺れるその瞳。
私の返事を聞かぬまま、
つかまれたのは今度は私の掌だった。
「よ、よっちゃん…」
「あはは、大丈夫だよー、今日は志保ちゃんのために俺頑張るから!」
わ、私のため?
意味が分からないまま、
私はガッツポーズをするよっちゃんを見つめた。
つかまれた掌はそのまま。
ずんずんと先を行くスピードもそのまま。
ただ、
いつもと違うのは、匡が一言も話さなかったことだけ。
「ま、匡?」
学校を出て、少し歩いた所で
匡の足が止まった。
「ん。」
「?」
手を離し、無理やり背中を押し私を家の中へと押し込む。
どうやらここが匡の家だったようだ。…大き目のブルーの外壁のおしゃれな家。私は押されるがままその家へと足を踏み入れた。