シェリー ~イケない恋だと、わかっていても~
「おい、とも。さっちゃんは、結婚してんだから。手、出すなよ?」


匠哉さんが睨むようにして、彼に言った。


〝ともさん〟って言うんだ。


〝とも〟という2文字を知っただけで、ドキンとする。


どうしたんだろう、わたし……。わたしには、けいちゃんがいるのに、こんな気持ちになるのはおかしすぎる……。


きっと昨日あんなことがあったから、ちょっとだけ心に隙間が出来てるんだよね……?


「えぇ?結婚?彩月ちゃん、結婚してるのかぁ。残念。でも、人妻に見えないね~」


あー、ダメだっ!ともさんの声、言葉、すべてがわたしの心をくすぐる。


「やだっ、彩月!顔、赤いよ!?もう、彩月には啓太さんっていうステキな旦那様がいるでしょー!!」
「そうだよ、さっちゃん。すごくステキな……って、俺なんかマズイこと言った!?」


梨江子の言葉に、昨日の甘い香り、そしてメールの内容、すべてのことがよみがえってきた。


匠哉さんが喋ってる時、わたしの顔が歪んで。そんなわたしの顔を、匠哉さんが覗くようにして見てきた。


「あっ、ううん!!なんでもないのっ。あのね、これ!昨日作り過ぎちゃって!2人に食べてもらおうと思って、持ってきたんだ!もし良ければ、匠哉さんのお友達さんもどうぞ!じゃ、わたし帰るね!ステキな休日を!!」


梨江子と2人なら、ここでけいちゃんのことをぶちまけれたと思う。


だけど、どうしても匠哉さんと、ともさんがいる前では言えなくて、梨江子におかずを押し付け、逃げるように去ろうとした。


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