記憶の本〈母の中の私〉
どれくらいの時間がたったのだろう、私が少し落ち着きだした頃、

「で、翔ちゃんには言ったの?」

やっぱり心配そうな顔をしながら、綾野は私に尋ねる。

私は下を向きながら、「まだ検査薬しかしてないし・・、病院行ってないし・・、はっきりしてないし・・、迷惑かけたくない。」力なく答えた。

綾野は、はぁーっと大きく溜め息をつくと、私の目の前に座り直し、凄く真剣な顔つきで話始めた。

「由美!迷惑とかの問題じゃないでしょ!子供は一人で作るのか、翔ちゃんと二人で作ったんでしょ!」

私は綾野のあまりにも真剣な眼差しに、何も答えられずにいた。

続けて綾野は、

「ただはっきりしないうちだと、翔ちゃんも戸惑うだろうから、病院に行ってはっきりさせな!」

そう言うと、私を諭す様に「一人で行けるかい?」と優しい笑顔で綾野が聞いてくれた。

私は綾野の笑顔に、又涙ぐみながら首を横に振る。

綾野は私の頭をポンポンと二回叩くと、

「じゃあ、明日の放課後一緒に行ってあげるから、病院行こうね。」

そう言うと、綾野は私を優しく抱き締め「大丈夫、大丈夫。」と言いながらゆっくり背中を摩ってくれた。

私は綾野に抱きついたまま、小さな声で何度も何度も泣きながら、「ごめんね、ごめんね・・。」って言うしか出来なかった。
< 11 / 33 >

この作品をシェア

pagetop