記憶の本〈母の中の私〉
診察室に入ると、40代ぐらいの女の先生が座っていた。

「はい、じゃあそこの椅子に座って!」

私は先生に言われるがままに、目の前の椅子に腰を降ろす。

「今から色々聞くから、答えてね!最後の生理はいつでしたか?―――――、」

先生が何を聞いて、どう答えればいいのか答えはわかっていたのだか、緊張しまくりの私はうまく話すことが出来ない。

いつのまにか私は、先生の後ろにある窓の外の景色をボーッとしながら見ていた。

気づくと私の目の前で、何かがヒラヒラ動いている。

びっくりして見ると、先生が私の目の前でヒラヒラ手を振っていた。

「おーい!大丈夫かい?緊張する気持はわかるけど、私にまかせなさい、しっかり見てあげるから!」

そう言うと先生は、にこっと笑った。

先生のその笑顔は、お母さんの優しい笑顔と一緒だった。

その笑顔を目にした途端、一気に緊張がほぐれ、肩の力がスーッと抜けていく。

自然と先生の笑顔につられ、私も笑顔になっていた。

そのまま問診は続き、診察が全て終った。

「三ヶ月に入ってるね、おめでとうでいいのかな?まぁ18才で若いからしっかり考えて、相手ともよく相談して決めなさい。」

そう言うと先生は、

「大丈夫だよ、わかんない事あったら何時でもおいで、話聞いてあげるから、待ってるよ。」

そう言って、にこっと優しい笑顔を私に向けてくれた。

先生の優しい笑顔に勇気をもらい、私は心の中で大丈夫とつぶやいていた。
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