記憶の本〈母の中の私〉
翔ちゃん。
私は、真っ暗な部屋に入ると、電気も付けずベットの上に腰を降ろした。

暗い部屋の中、私の頭は翔ちゃんと赤ちゃんの事で一杯になっていた。

ふと、私の頭の中を翔ちゃんとの初めて出会った時の事がよぎった。

翔ちゃんとは、付き合いだしてもうすぐ一年ぐらいになる。

綾野の従兄弟で、私が初めて会ったのは高校一年の夏だった。

綾野と夏祭りに行く約束をした私は、ワクワクしながら綾野を家まで迎えに行く。

綾野の家に着き、玄関のチャイムを押すと、奥の方から綾野の声が聞こえてきた。

「ちょっと、翔ちゃん!由美だと思うから玄関出て! 」

翔ちゃんって誰だ?!なんて私が思っていると、玄関のドアが開いて男の人が出てきた。

出てきた男の人をみた途端、私の心臓が一気に騒ぎだす。

柔らかそうな茶色い髪の毛、大きくクリクリとした目、ちょっと厚めの形のいい唇。

そして何より、私の心臓を一番騒がしたのは、太陽みたいなキラキラな笑顔だった。

一目惚れなんてするタイプじゃない私だけど、この一瞬で確実に恋に落ちていた。
< 16 / 33 >

この作品をシェア

pagetop