記憶の本〈母の中の私〉
「おーい!由美どうしたの?」

綾野が、玄関まで出てきていたのも全く気づかず、私は翔ちゃんを見つめていたらしい。

綾野の声に、我に返った私は急に恥ずかしくなり、慌てて下を向いた。

綾野は怪訝な顔をしながら、翔ちゃんを一睨みすると、

「こら、私の親友に何をした!全く油断も隙もない。」

そして、一つ溜め息を落とすと、

「こんな奴ほっといて、早くお祭り行こう!」

そう言って、綾野は私の手を引っ張りながら家を出る。

引きずられる様に家を出た私の後ろから、翔ちゃんの声が聞こえてきた。

「こんな奴とは失礼だなぁ、由美ちゃん!俺、翔って言うんだ、よろしくね!じゃあまたね。」

振り返ると、翔ちゃんは太陽みたいな笑顔で、大きく手を振っていた。

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