記憶の本〈母の中の私〉
お母さん、林恵〈ハヤシメグミ〉のニコニコ笑顔を見ると、怒りやイライラが、凄くちっぽけなものに思えてくるから不思議だ!

そしていつも「まぁいいっか♪」と気づけば言っている私がいる。

お母さんのおおらかで楽天的な性格は、どこから来るのか不思議でしょうがない。

そんな事をぼーっとしながら考えてもいる私にお母さんが、

「ほら、早く食べちゃわないと本当に遅刻するよ!食べなきゃもたないよ、いっぱい、いっぱい食べるんだよ!」

「そんなにいっぱい食べたら、太っておデブになっちゃうよ。」

苦笑いしながら、席に着きご飯を食べようとすると、

「そんな事言ってたら元気な・・・、いいから食べちゃいなさい!」

お母さんはそう言うと、そそくさと台所の方へ消えていった。

《なんだろう?》とちょっと疑問に思ったが、いつもの「まぁいいっか!」でさっさと朝御飯を済ませ、急いで玄関へ向かった。

玄関で靴を履き、家を出ようとした私にお母さんは真剣な顔で、

「由美!これからいっぱい色々な事あると思うけど、しっかり頑張るんだよ!お母さんはいつだって由美の味方だから・・、自分の信じた事を信じた通りにしなさい!」

あまりの真剣な顔のお母さんに、私はちょっと吹き出しながら、

「何?朝からどうしたの、なんかの宗教の受け売り?変なのに騙されちゃ駄目だよ!じゃあ、いってきまーす♪」

「いってらっしゃーい♪」何事なかったかの様に、お母さんはいつものニコニコ顔に戻っていた。

少し歩いてなんとなく気になった私が振り返ると、まだ玄関でニコニコしながらお母さんは手を振っていた。

「いってきまーす♪」

元気いっぱい大きく手を振り返えすと、私は力いっぱい学校までの道のりを走り出した。

大好きなニコニコ顔のお母さんを見るのが、これで最後になるなんて思いもよらずに・・・。


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