記憶の本〈母の中の私〉
翔ちゃんとは夏祭りで会って以来、七夕、ハロウィン、クリスマス、お正月とイベントと名がつく時には、必ず綾野の家で会っていた。

綾野の家族は大のつくほど仲良しで、イベント時には必ず家族揃ってパーティをする。

その時には、必ず私も招待してくれて、一緒に楽しい時間を過ごしていた。

その楽しい時間に、ここ一年は必ず翔ちゃんも招待されているらしく、私は密かに翔ちゃんに会えるイベントを楽しみにしていたのだ。

私は慌てて、先に歩いている綾野を追いかけた。

「翔ちゃん来るの?ねぇ綾野、翔ちゃん今日も来るの?」

私が必死に問いかけても、綾野は無言のままスタスタと歩き続ける。

ヤバイ!このままじゃ翔ちゃんに会えない・・。

そう思った私は、綾野の歩いている前に回りこむと、

「綾野ちゃーん!私も行きたいなぁ〜、綾野ちゃんのお誕生日お祝いしたいなぁ〜、駄目ぇ〜?」

精一杯甘えて、顔の前で両手を合わせると私は綾野にお願いをする。

綾野は、ふてくされながらも私の顔をチラッと見て、

「由美は、私より翔ちゃんでしょ!」

そう言って、私の額を軽く指で弾いた。

弾かれた額を押さえながら、私が苦笑いをすれば、

「まったく、あんたって子は・・。」

そう言って、クスッと綾野は笑った。
               「翔ちゃん来るんだから、遅刻厳禁だからね!わかった!五時に家に来てよ、五時だよ、五時!」

しつこく綾野に念を押されながら、

「わかった、五時ね!むっちゃ可愛くして行くから――。」

そう最後まで言い終わらないうちに、めーいっぱいダッシュして私は自分の家に向かった。

「さぁ〜、今日が勝負だ!頑張れ・・。」

後ろで綾野が、何か企む様な笑顔を浮かべて呟いていたのも知らずに・・・。

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