記憶の本〈母の中の私〉
家に着くと、お母さんはリビングでワイドショーを見ながら、紅茶を飲んでいた。

「ただいま、あのね今日――」

私が、綾野の誕生日会の話をお母さんにすると、

「あら〜っ!それはめでたいわね、由美、ところでプレゼントは?」

「えっ!あ〜っ・・」

翔ちゃんの事で、すっかり浮足だっていた私は、プレゼントの事などまるっきり頭に無かった。

私は鞄からお財布を取りだし、恐る恐る中を覗いて見る。

「やっぱり・・・」

どれだけ振ろうが、逆さまにしようが、出てきたのは百円玉三枚、五十円玉一枚、十円玉四枚、一円玉二枚と寂しいものだった。

私がショックで落ち込んでいると、肩を震わせながら笑いを堪えているお母さんの姿が目に入る。

「もぉ〜っ、笑い事じゃないよ。」

はぁ〜っと、溜め息をつき落胆した私に、

「ごめん、ごめん!由美のことだからそんな事だろうとは思ってた(笑)これあげるからお花でも買って行ったら?」

そう言って、お母さんは自分のお財布から千円札三枚を取り出すと、私に渡してくれた。

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