記憶の本〈母の中の私〉
暫くして、綾野と翔ちゃんもリビングに入ってきた。

翔ちゃんは、私が座っているソファの所までやって来ると、

「由美ちゃんの隣、座らせてね。」

私が返事をする前に、ストンと私の隣に腰を降ろし、ニコッっと笑った。

私は翔ちゃんの隣でドキドキしていたが、ふと視線を感じ振り返って見ると、キッチンの方からこちらを見ていた綾野と目が合った。

目が合った途端、慌てて目を反らした綾野に、違和感をおぼえた私だったが、すぐお誕生日会が始まってしまい、楽しくてすっかり気にならなくなっていた。

綾野のお母さんが作った料理は、どれもこれも美味しかった。

私は勧められるまま、チキンやケーキ、デザート全てたいらげる、気づけばお腹ははち切れる寸前になっていた。

私はちょっと休憩しようと思い、ベランダへ向かった。

ベランダの窓を開けると、心地いい風が私の頬を撫でる。

一つ大きく伸びをして、ベランダに寄りかかれば、私の背中越しに、皆の笑い声が聞こえていた。

< 30 / 33 >

この作品をシェア

pagetop