記憶の本〈母の中の私〉
私がキョトンとしていると、翔ちゃんの側を離れた綾野が、私の隣にやって来た。

「実は、こういう事だったんだなぁ!だから今日由美と翔ちゃん二人揃って呼んだの、私の誕生日にかこつけて!」

そう言って、私の顔を覗きこむと綾野は、ニヤッと笑った。

「ありがとう綾野!でも綾野の誕生日なのに、私がプレゼント貰っちゃったね」

私が、綾野の左腕に甘える様に抱きつきながら、ごめんねと言えば、

「本当だよ、翔ちゃん五月蝿かったんだから!由美は彼氏いるのか?誰か好きな奴はいないのか?って・・あんまりにも五月蝿から、教えなかったんだ!由美が翔ちゃん好きだって事!」

ペロッっと舌を出して、子供みたいな笑顔で、綾野は笑っている。

私も綾野の笑顔につられ、一緒に笑った。

私と綾野は、一通り話終わるとリビングに戻ろうとベランダを後にした。

リビングに戻ると、翔ちゃんは綾野のお父さんと一緒に、小踊りをしていた。

「嬉しかったのはわかるけど、あれじゃあ・・バカまる出し」

綾野は、とびきり呆れた表情で大きなため息をついたが、私は嬉しくなった。

自分が好きな人に、〈好き〉って言ってもらえるのは、奇跡に近い事だと思う。

同じ好きって言葉でも、好きじゃない人に言われても、何も心に感じないのに、好きな人に〈好き〉って言われると、心の奥の方が凄く、凄く暖かくなる。

幸せってこんな感じかなぁ・・・。

お父さんとお母さんも、こんな感じなのかなぁ・・・。

リビングにいる翔ちゃんを見ながら、私はしみじみ考えていた。


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