記憶の本〈母の中の私〉
綾野の家に着くと、チャイムを押す前に玄関から綾野が出てきた。

「どした?今度は何の相談だ、私男いないんだから、ノロケだけはやめてよね。」

綾野は冷やかすように言うと、私を部屋に通してくれた。

コーヒーを持ってきてくれた綾野は、ソファに座ると、

「何?顔暗いけどどした?テストの点でも悪かったかい、でも今に始まった事じゃないかっ。」

そう言って笑っている。

「ちがう。」

綾野の顔を見ずに、私は答えた。

「じゃーどした?便秘か?」

「ちがう・・。」

「じゃー何?もうハッキリ言いな!」

「できた・・。」

「はぁ?何が?」

「だから、――できた。」

「だから、何が・・?!もしかして赤ちゃん!!」

綾野は、びっくりしながら私を見ている。

私は、声が出せず首を縦に振る事しか出来なかった。
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