メロディフラッグ
次郎は地元から電車で30分ほどの、東京郊外のピアノ教室に通っていた。 ピアノ教室といっても、近所の子どもが初めての習い事に、と通うようなものではなく、音大志望の学生や、プロを目指すような人が通う、かなり本格的なところだった。
先生は時任喬という、ちょっとピアノをかじったことのある人なら誰だって聞いたことのある元プロだった。まだ四十代半ばの頃、突如として引退し、今ではこうやって教える立場になっている。
時任の家の標札のところには、ボロボロで所々錆びた、『ピアノ教えます』という看板が掲げてはあるが、これを見て訪ねてくる人間はまずいないだろう、というのがこのピアノ教室に通う生徒一同の見解だった。
時任自身、そう思っていた。
しかし、物好きは居たもので、ある日一人の女子高生が訪ねてきた。
それが汀だった。
先生は時任喬という、ちょっとピアノをかじったことのある人なら誰だって聞いたことのある元プロだった。まだ四十代半ばの頃、突如として引退し、今ではこうやって教える立場になっている。
時任の家の標札のところには、ボロボロで所々錆びた、『ピアノ教えます』という看板が掲げてはあるが、これを見て訪ねてくる人間はまずいないだろう、というのがこのピアノ教室に通う生徒一同の見解だった。
時任自身、そう思っていた。
しかし、物好きは居たもので、ある日一人の女子高生が訪ねてきた。
それが汀だった。