Polaris
「君にこれを渡したかっただけだから」


そう言うと、歩き出す結城さん。


本当にこれだけのために、わざわざ来たのだろう。


「、、、結城さん」


あたしが呼び止めると、結城さんは歩みを止める。


「わざわざ、ありがとうございます」

「あぁ。でも、俺が会いに来たのは君じゃない」

「え?」

「君は、俺が知っている君じゃない」


それだけ言うと、結城さんまた歩き出しお店を出て行った。


あたしは、あたしじゃない。


誰かにそう、言われたのは初めてだった。


そんなの、あたしが一番わかってる。


あたしはCDの中にいる、あたしは見る。


この時のあたしの中にはまだ、未来が生きていた。


だから、同じ人間なのにこうも違う人間に見えるんだ。


本当のあたしは何処にいってしまったの?

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