私の可愛い泣きべそサンタ
よし、他人の振りをしよう。
あ、木之下三汰。
静香は相変わらず虚ろな目をしながらコンビニの近くの木の下を見つめた。
そして同時に思った。
厄介なものを見つけてしまった、と。
その場所だけ、聖夜の夜だというのにどんよりと空気が淀んでいる。
何故、彼が赤と白の分かりやすいサンタの帽子をかぶり、こんなところで体育座りをしているのかなんて、どうでもよかった。
あの哀愁漂う背中が鼻をすする度に震えようがなんだろうが、自分には関係ない。
頭の先からつま先から、とにかく細胞レベルで自分の身体が訴えている。
早くこの場から逃げろ、と。
面倒なことになるぞ、と。
ノンフレーム眼鏡をカチャリとかけ直し、静香は初めから何も目に入っていなかったようにコンビニを目指した。
私は、なにも、見ていない。
私は、なんにも、気づいていな
「あ、委員長。」
その涙交じりの声に、ビシッと静香の背中がかたまる。
一歩一歩、呪文のように言い聞かせていたのに、自分の右足はなかなか前に進まない。
「委員長、委員長だよね?」
「…。」
繰り返し自分を呼ぶ声。
静香は観念したようにゆっくりと振り返った。