私の可愛い泣きべそサンタ


………




「…ごめんね、木之下君。」

「・・・え?!」

まさか彼女からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかったのだろう。

人口の光で照らされた駅前の隅で、静香は色んな意味で“ごめん”とこぼしたのだ。

サクラの家を教えなくてごめん。

サクラに彼氏がいると知っていたのに黙っててごめん。

その彼氏が自分の兄でごめん。

…それと、


「…プレゼント、渡したかったでしょ。なのに…ごめん。」

兄はあのガタイの癖に、相当なヤキモチ焼きだ。

ただでさえ社会人(しかも公務員)が女子高生と。と周りには堂々と言えない間柄。

本当は大々的に“こいつは俺の女だ!”とでもマイクで叫びたいぐらいなのだろう。

三汰がサクラにプレゼントなんか渡してみろ。

目の前で叩き割られる。




頭を下げる静香に、困ったように三汰は夜空を見上げ、頭をガシガシとかいた。

「うーん…なんだかなぁ。」

はっきりしない言葉を並べ、三汰はキョロキョロと周りを見渡す動作をする。

「委員長。」


なに?と顔をあげた静香の手首を、今度は三汰がパシっと握った。


え。


駅とは反対の方へ歩く彼に、静香は引っ張られるように足を進める。


ガシ、ガシ、ガシと。


彼のスニーカーの裏から大きな音がした。


「委員長はさ。」

静香はその掴まれた腕を見る。

さっきのベンチでは、なんて頼りなげな手なのだろうと思っていたのに。


触れられて、初めて気が付いた。

彼と自分の指は、こんなにも違うのか。

がしっとしていて、ゴツゴツでかたくて。


「バカだよね。」


あん?


静香は眉を寄せて、人の事をバカ呼ばわりした馬鹿を見上げた。






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