私の可愛い泣きべそサンタ
幼馴染のサクラとは、そこそこ仲がいい。
美人で屈託のない彼女の事も、嫌いではない。
しかし厄介事がこちらに振りかかるとなれば話は別だ。
彼女はモテるのだ。
『普段の彼女って、どんな感じ?』
そんな質問に一々答えるのもわずらわしい。
色々教えてくれと聞かれた回数47回。
彼女のアドレスを教えてくれとお願いされた回数14回。
挙句の果てに仲を取り持ってくれと手を合わせられた回数……もういいだろう。
とにかく物心付いた頃からそんな感じなので、なんとなく、なんとなくではあるけれど、彼女に好意を寄せているであろう人物が分かるようになってきていた。
…彼、木之下三汰もそんな中の一人である。
静香はしぶしぶ駆け寄ってくる彼を見上げる。
「…?!」
その顔を見るやいなや、静香はガシッと彼の腕を掴み、近くの人目に付かない薄暗いベンチに引っ張っていった。
「…え、なに?」
心底不思議そうに問いかける三汰に、静香はため息交じりに答える。
「…それ、外したら?」
彼女は力無く彼の顔面を指さした。
綿だ。
彼の眉毛に怪我をした時に使う白い綿が付いている。
セロテープでかろうじて付いている。
眉毛だけではない。
口の周りにも、もっこもこに付いている。
…こんな人と一緒にいるところなんてなにがなんでも見られたくない。
静香の残酷なまでの心の声は、三汰には違って聞こえたのであろう。
「あっ、ありがとう。」
彼は嬉しそうにその簡易な口髭をはがしだした。