私の可愛い泣きべそサンタ
ずーーん…
静香はちらりと隣を盗み見る。
…この様子では、すでに玉砕済みか。はたまた途中で諦めたか。
はぁ…。
静香は思わずまたため息をついてしまった。
なぜならば、彼のこの思いが報われることはないと知っているからである。
「…笑っちゃうよねー。」
急に。
アハハと隣の男が笑い出す。
その明るい声に、静香は何事かと顔をあげた。
「こんな恰好…。委員長もびっくりしたでしょ?クリスマスの夜に木の下で木之下三汰がサンタの格好して…って、寒いダジャレもいいとこだよねーー。ほんと、なにしてんだろうねー俺。ハハ。」
ペラペラと自虐するように三汰は喋る。
木の下に、サンタの恰好(しかも顔パーツのみ)をした木之下三汰。
あ、ほんとだ。
静香は今頃気が付いたように、先ほどの丸まった彼の背中を思い出した。
「…。」
「俺さ…。」
返事をしない静香に、三汰はふと笑顔を消して、懺悔でもするようにつぶやく。
「この名前嫌いでさ。
昔っからよくからかわれてたんだよね。
でもさ、ある子が言ってくれたんだ。
とっても素敵な名前ねって。
御両親にとって、あなたはきっと大事なプレゼントだったんでしょうねって。
…ほんとはさ、俺三男で、そんだけの理由だったんだけど。
でも、笑ったんだよその子が。ニコって。
…もーめちゃめちゃ可愛くってさ。
俺、一発で自分の名前が好きになっちゃって…。」
星が輝く夜空を、キラキラした瞳で彼は見上げた。
傷心中特有の、浸りに浸りきった潤むまなざし。
そんな彼の眉毛は、一部テープに持って行かれ結構なミステリーサークルが出来上がっていた。
しかもそのミステリーサークルは、幸か不幸か、ハート型で。
「で、さ。
…俺もその子の…“キミだけのサンタ”になりてぇ
…って思ったんだけど、」
…キ、キミだけのサンタ。
詩人と化している同級生の男の子に、静香はぐっと息を飲む。
「サク…その子んち、この辺りのはずなんだけど、
俺この町初めてで、
……迷子になっちゃって。」
ま、迷子…っ?
静香は黙ったまま口を手で押さえた。
振られたのかと思ってたのだが、ふたを開ければただの迷子…。
この寒空の下、
年に一度の聖夜に、
あんなマヌケな仮装で、
意中の人の家が分からず、
体育座りで半泣き…。