私の可愛い泣きべそサンタ

あれだけ三汰を笑った身なのだが、静香も静香で、恋人の元へ意気揚々と出かけて行った兄の背中に『クリスマスなんかクソくらえ』と思った側の人間だ。
(お前は今年もクルシミマスかー?などとのたまったアホ面の兄のせいでもある。)


特にケーキを食べるでもなく、はたまたチキンを丸かじりするでもなく、そして悲観にくれるでもなく。

そんな静香の性格を知っているのかいないのか、両親は二人とも元気に仲良く残業中で、彼女にそういうキラキラした夕食の準備などしていなかった。

来年の受験に備えるべく、夕食もそこそこにこんな日にも静香は机に向かう。

その時だ。

ふと食べたくなってしまったのだ。


あの熱々おでんを。




「あ、」


たった今何かに気がついたように三汰は箸を慌ただしくプラスチックの器に入れる。

わたわたと不思議な動きをしている彼を、動物園の動物でも観察するように静香は見つめた。

ふが、と。

三汰が鼻から何か出す。


…は?


静香は、目を見開いた。

三汰の手に転がる白い、綿。

「…な、」

なにそれ。とか、なんで綿を鼻に。とか色々聞きたい事があったのだが。

静香が質問する前に三汰は笑って説明する。

「なーーんか食べにくいなぁ、と思ったら入れたままにしてたー。息がしずらいはずだそりゃ。」

いやいやそうではなくて。

静香は心の中で隣の男にツッコミを入れた。

どうやら偶然入ったわけではなさそうなので、静香は気を取り直し頑張って尋ねる。


「、…なんで鼻に。」


なんで。

いったい。

どういった事情で。

三汰は、ん?と首を傾げ、あたりまえの様に言った。


「え?だってサンタ、鼻毛も白髪なんでしょ?」

っ?!

静香は凄まじい衝撃を全身に感じながら口を開ける。

いや、いやいやいや。

当然だろうとでも言いたげな三汰の頭髪はいつも通りの焦げ茶色で。

「あ、っ、はははっ…!!」

なんで一点集中したんだ。

鼻毛にこだわるなら他にもっと気の使う所があっただろうに。

髪とか。体型とか。服装とか。

なんで、なんで鼻毛の色。



「…俺、委員長が笑ってんの、はじめて見たかも。」

目を見開き、ぼんやりと静香を眺めながら、三汰はそう呟いた。





…久しぶりに声を出して笑った後、静香は気を取り直しておでんをつつく。


「俺一番牛スジが好きー。」

そういいながら三汰が牛スジにかぶりついた。

「そう。」

静香はそんな三汰に短く返事をする。


ほふほふと最後のこんにゃくを飲みこんで、静香はコトンと箸を置いた。


「じゃあ、行きましょうか。」

「えっ?」

どこに?と三汰は静香を見つめる。

どこって…。

「木之下くん、帰り道わかんないんでしょう?」

駅まで送っていってあげる、と静香はおでんのゴミを右手に持ち、よいしょと立ち上がった。

その言葉に、三汰は一瞬目を見開く。

…ん?

なかなか立ち上がる気配のない彼に、静香はゆっくりと振り返った。


彼は、下を向いて、自分の手の中を見つめる。

赤いリボンの、小さなプレゼントを。


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