ロング・ロング・ゴースト
ロング・ロング・ゴースト
10年ほど前までこの家にいた家族は、ピアノとこの家を捨てた
逃げた、というよりも、捨てた、とするほうが正しいだろう
愛娘が死んで、両親は、そこから逃げ出したのだ
娘との思い出がつまったこの家から
娘が愛したこのグランドピアノから
かわいそうなのは残された娘の幽霊
逃げ出した親を追いかける力もなく
ただただ、大好きなピアノに寄り添い
1人さびしく窓を見つめる毎日
「お母さん、どうしてわたしを置いていったの」
「お父さん、どうしてピアノを置いていったの」
連れていってほしかったのに
連れていってほしかったのに
少女はもう長い間窓の外を見ている
パサついた髪は重力に従って床に伸びている
肩ほどだった髪はもうずいぶん伸びた
ピアノの脚と少女の足をつなぐ鎖にもからまって。
彼女はもう長い間、ピアノを弾くこともせず窓を眺めている
今日もその瞳には太陽がうつる
「お母さん、まだかなあ」
「お父さん、まだかなあ」
ぼろぼろに崩れた家の片隅で
ロング・ロング・ゴースト
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