ウソつきより愛をこめて
「…あれ、なんで俺こんなに前はだけてんだ?」
だらしなくソファーで爆睡していた橘マネージャーがやっと起き上がってきたのを、私がどれだけ緊張して迎えたことか彼にはきっとわからない。
「お前、まさか俺が寝てる隙に…」
にやにやと笑いながら、彼は無駄に筋肉のついた素肌をシャツの間から覗かせる。
私はその時、どれだけ間抜けな顔をしたことだろう。
「…え、マジなの?」
橘マネージャーが一人で繰り広げる茶番劇に、つっこみを入れる気すら起こらなかった。
…だって覚えてないとか、あり得なすぎる。
「帰って」
「…は?」
「これ昨日のタクシー代。早くボタン閉めて。これ以上寧々の目に変なもの晒さないで」
「へ、変って…」
無理やり橘マネージャーの背中を押して、その身体を玄関先にまで追いやっていく。
「寧々もするっ!」
寧々は私と橘マネージャーが遊んでいると思ったのか、部屋から追い出すことを積極的に協力してくれた。
「おい結城。…なに怒ってんだよ」
「知らない。自分の胸に手を当てて考えてみれば?」
ムカついて、思いっきり強くドアを閉める。
勝手にキスして、人の身体好き勝手に触りまくったくせに。
思わせぶりなこと言って、私を一晩中悩ませたくせに。
覚えていないなら、昨日のことはなかったこととして済ませられる。
…なんでこんなに悲しいのか、自分でもよくわからなかった。