ウソつきより愛をこめて
「それは…、」
無理だと伝えたいのに次の言葉が続かない。
「…私が、それにはいと答えたら、本当に守ると思う?」
「守らせる」
「もしかしたら、ひろくんと不倫してるかもしれないよ?」
そう言ったのは私の賭けだった。
橘マネージャーがどのくらい私のことを信じているのか、試してみたくなった。
「お前に限ってそれはない。10年以上何も出来ずに片思いしてたくせに、いきなりそういう器用な真似が出来るわけがない」
「……!」
間を置くことなくきっぱり言い切った橘マネージャーの顔を、私はまじまじと見つめてしまう。
「なんで、そういうこと疑ってるから…会うなとか…言ってくるんでしょ?」
「それは…俺の、子供じみた考え方のせいっていうか…」
「なにそれ。意味わかんない」
「こんな場所で言うべきことじゃないってことぐらい、頼むから察してくれ」
そう言われて後ろを振り返れば、数人の保育士さんたちが頬を染めながら急いで私たちから目を逸らしている。
気恥ずかしくなった私は、残りの積み木を再び手早く回収し始めていた。
大方、夫婦ふたりでいちゃついているようにでも見えたのだろう。
最後のひとつを取ろうとした時、ふと私の目の前が暗くなっていた。
「お前、…何その顔」
「……!」
あまりにも近くから顔を覗き込まれて、私は絶句する。
「泣いた?」
「泣いてないから。さっき両目にゴミが入って、すごい勢いで擦っちゃっただけ!!」
そんな見え見えの嘘をついた私を、橘マネージャーが思いっきり訝しげな表情で見つめていた。
「…橘マネージャーって私のこと美化しすぎ。そんなに純粋な女じゃないと思うけど」