ウソつきより愛をこめて

「…確かに、もうあっちの方は純粋ではないな」

「もういい。聞いた私がバカだった。寧々、帰ろ」

ニヤつきながら別のことを想像しているに違いない橘マネージャーを置いて、私は先生方に挨拶を済ませそそくさと保育室を出て行く。

後ろを追いかけてくる足音に一瞥くれてやると、彼は口元になんだか満足そうな笑みを浮かべていた。

「おい。ちゃんとタクシー拾って帰れよ」

「はいはい。寧々様に寒い思いはさせませんからご心配なく」

「お前のことも心配して言ってるんだ」

何気なく言われたそのひと言に、心臓が慌ただしく騒ぎだす。

そのまま彼と見つめあった私は、数秒その場を動くことが出来なかった。

「…もう若くないんだから。身体労われよ」

「ひと言多いし、あなたに言われたくない」

そう言い返したけど、橘マネージャーの頬も心なしか赤くなっている気がして、なんだか居た堪れない気持ちになってしまう。

(なんなんだ…今日の橘マネージャーは)

お願いだから、変に私を焦らせるようなことは冗談でも言わないでほしい。

「あの、ちなみに明日って…」

「お前遅番だよな。俺が早番で上がったら、ケーキとか寧々と色々準備しておくから楽しみにしてろ」

「うん、わかった」

そう言われて、私もひとつ、心の中で決意を固める。

それはずっとずっと、考えていたこと。

…全てを打ち明けるなら、明日のクリスマスが一番いい。

さっきひろくんと話したことで、私も覚悟を決めていた。

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