ウソつきより愛をこめて
こっちを見るな…!と言わんばかりに睨みつけても、橘マネージャーは呆けた表情のまま、全く視線を逸らそうとしない。
そのうち中から試着を終えたお客様が出てきてしまって、ようやくそこで彼は我に返っていた。
「あの…どうでしょう…」
「お、お似合いですよ…。とても、すごく、お似合いです」
そう言って頬を染めながら、橘マネージャーは照れくさそうに視線を足元に落としていく。
「えっ、じゃ、じゃあ私これ買います!ついでにこれも!」
イケメンにそんな顔をされた女の子は大喜びで、購入する商品を次々と橘マネージャーに渡していた。
「…さすがですね。橘マネージャー」
「いつの間にあんな技を…。なんか、負けてられない」
クリスマスで浮かれているせいか、お客様の財布の紐も自ずと緩くなる。
「すいませーん…DMに載ってるこのワンピースって…」
「はい!只今ご案内いたします!」
勝手に対抗意識を燃やしてしまった私は、それから彼に目をくれることもなく、終わりの全く見えない接客対応に明け暮れていた。
「エリカお疲れー。ラストまで持ちそう?今客も引いてるし、先に一番とってもいいよ」
「ありがとう助かる。あー、喋りすぎて喉カラカラ~…」
「ついでに心も潤してきなさい」
「…なんのこと?」
ふふっと肩を竦めてひとりで笑っている美月を不審に思いながら、私は休憩室の扉に手をかける。
「…痛て…っ!」
「あ、ごめん」
ドアを開けたその先に誰かいたのか、痛みを堪えるように足を押さえながらその場にうずくまっていた。