ウソつきより愛をこめて
「た…橘マネージャー!」
「誰か出てこないかくらい…ちゃんと確認してから開けろよ…」
「ごめん、よそ見してた。大丈夫?立てる?」
申し訳なく思いながら彼に手を差し出すと、なぜか顔を赤くしながら自分でさっさと立ち上がってしまった。
「お前さ、今普通にスカートの中見えたんだけど」
「え?ああこれね、見えても大丈夫なやつだから」
「あのなぁ…そういう問題じゃなくて…。マジでそれ、廃止になんないか上に掛け合ってみるわ」
「絶対私似合わないよねー。…みんな自分がやりたくないからってお世辞言い過ぎだし…」
「誰も似合わないとは言ってないだろ」
「……!」
いきなり真顔でそんなことを言われた私は、注いでいたウォーターサーバーの水を危うく零しかける。
私たち以外誰もいない休憩室には、なんだか気まずい空気が漂っていた。
「やめてよ、橘マネージャーまで…」
「…だからあんまり見せびらかすな」
「な、なにを言って…からかわないで」
焦って動揺する私の方に向かって、躊躇なく彼は顔を近づけてくる。
避ける余裕はあったのに、やっぱり動くことは出来なくて。
「来年からは、…俺の前だけにしろよ」
軽く掠めるように触れてきた唇を、顔を真っ赤にしながら受け入れてしまった。
(来年からって…)
甘い余韻を残した彼が出て行ったドアから、目を離すことが出来ない。
まるで未来の約束でもされたような気がして、私はどうしようもなく浮かれてしまった。