ウソつきより愛をこめて
「じゃあ、私はここで寧々と待ってるね」
「……」
「ひろくん?」
「わ、わかったよ…行ってくる」
翌日一緒に病院を訪れたひろくんは、傍目にもわかるくらい緊張している。
病院のコミュニティルームで待機していることになった私たちは、今にもプレッシャーに押しつぶされてしまいそうなその背中を、不安を抱きつつ見送っていた。
「これ、遊んでいい?」
「ちゃんと靴脱いでね」
多分待っている子供が飽きないように作られた遊びのスペースで、寧々は嬉しそうにおままごとをしている。
子供って、本当に可愛い。
それが自分の愛した人の子供だったら、尚更だろう。
「……」
もう思い出しくない苦い記憶が、まだ私の心の中にで火種のように燻っている。
あの時彼がそばにいてくれてたら、私たちの未来は今とは違うものになってただろうか。
「……はぁ」
大きくため息をついて、飲み物を買うために自動販売機の方に向かう。
財布から小銭を取ろうとしたら、うっかり百円玉を取り損ねて落としてしまった。
床を転がっていったそれは、近くにいた人の足にぶつかってくるくると円を描きながら止まり―――。
「あ、すみませ…」
顔を上げた瞬間目があって、お互いに同じような驚嘆の表情を浮かべている。
「マリカ…」
「えっ!エリカ?なんでここに?」
病衣に身を包んだ彼女の瞳が、丸く見開かれていく。
一ヶ月ぶりに見たマリカは、胸が痛くなるほど身体の線が細くなっていた。