ウソつきより愛をこめて
「…ちょっと、歩いて大丈夫なの!?」
「え、あ…あんまりよくない…かな」
今にも倒れそうなほど貧弱な身体のマリカを、私は無理やり近くのソファーに座らせる。
遠くで遊んでいる寧々が目に入ったのか、マリカの目は一気に潤んでいった。
「…そっか、紘人が教えたのね。わざわざ…仙台から来てくれたの?」
「そうだよ。ねぇひろくん今マリカに会いに行ったんだけど。途中で会わなかった?」
心配そうにそう尋ねた私の瞳を、マリカは見ようともせず俯いている。
「まさか…会いたくなくて避けるためにここに来たの…?」
「……だって」
「ねぇマリカ。ひろくんがどんな気持ちで…」
「わかってる…!」
急に声を荒げたマリカの瞳からは、ぼろぼろと涙が零れ落ちていた。
「わかってる、けど、許せない、の…。今更だよ。私が育児に追われて大変な時期に、紘人はそばに…いてくれなかったんだから…」
「でもそれは…ふたりのために」
「寧々が高熱出して不安だった夜も、始めて“パパ”って喋った日も、生まれて初めての誕生日すら、紘人は…家に、帰って来なかった。一緒にいてほしいってどんなに訴えても、聞いてくれなかった。そんな…そんなパパなら…最初からいない方がいい…」
泣き崩れてうずくまるマリカの姿が、二年前の私とダブって見える。
どんなに会いたいって伝えても会ってくれなくて、いつの間にか我慢するのが当たり前になっていた。
勝手な都合に振り回されても、誘われれば嬉しくてどんな遅い時間でも会いに行った。
彼女じゃないって言われても、好きだから本当はぎりぎりのところで耐えることが出来たんだ。
…全ての希望がなくなってしまった、あの日までは。