ウソつきより愛をこめて

思い出したら目頭が熱くなってきて、唇をぐっと引き結んだ。

…今まで誰にも言えなかった、私だけの大切な秘密。

「子供がいなかったことよりも、これで彼との繋がりがなんにもなくなっちゃたことの方が悲しかったの。そんな女のところに赤ちゃんが出来るわけないよね」

遠くを見つめながらそう言った私のことを、マリカは複雑そうな表情で見つめていた。

「…だから、あんたは甘ったれんなっつーの!バカ」

「…え…っ、バカ?」

「バカだよ。ひろくんは、過ちを認めて謝ってるのに、全然受け入れようとしないなんて。あんたが意地張って一番悲しむのは、寧々でしょ。許すってことも、いい加減覚えろ!」

「…っ!」

「マリカとひろくんの間には、寧々がいるの絶対忘れないで。ちゃんと目に見える二人の絆だよ。子供には喧嘩すんなって教えるくせに、なんなのよ。バカな大人でごめんなさいってちゃんと寧々に謝って。お願いだから、寧々が笑っていられるように仲良く暮らしてよ」

「エリカ…」

「マリカは私にはもう手に入らない宝物持ってる。私、羨ましくて仕方ないんだよ?だから一時の感情に惑わされたりしないで、…大切にしてほしい。寧々も、ひろくんのことも」


「ママ~!」

私たちのほうに向かって、手におままごとのご馳走を持った寧々が、一生懸命走ってくる。

「…あれ…?」

寧々は泣き顔のマリカと私を見比べて、大きな目をぱちくりと開いていた。

「えー?ママ、二人いるー!」

寧々の後ろには、気まずそうにこちらを見るひろくんの姿がある。

びっくりするどころか大喜びしている寧々の顔を見て、マリカの涙は止まっていた。

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