ウソつきより愛をこめて
「お、お久しぶりです。平泉マネージャー」
「おーおー、元気そうだな。もうお前の研修以来じゃねぇか」
深々とお辞儀をする私の背中を、平泉マネージャーは無遠慮にバシバシ叩いてくる。
関東全域の統括マネージャーであるこの方は、いわば橘マネージャーの直属の上司だ。
歳は私より二周りくらい上だけど、老いを全く感じさせないダンディなおじ様である。
「今日は…お休みのはずでは…?」
「たまたま初詣の帰りに通りかかっただけだよ。しかし大盛況だな」
「じゃあ…本当に偶然お会いできたんですね」
変わらない砕けた雰囲気に私もほっと胸を撫で下ろす。
入社当時の面接からお世話になった人だけに、感慨もひとしおだ。
「そういえばうまくいってんのか~?橘とは」
「…へ…?」
全く予想もしていなかった名前が出て、私は思わず気の抜けた声を出してしまう。
「お前らもよくあれから2年も続いたよなぁ…。で、式はいつ挙げるんだ?」
「あの…仰ってることがよくわからないのですが…」
次から次と出てくる意味不明な話題に、私は笑顔を保ったまま首を傾げていた。
“続いた”とか“式”とか自分には全く関係のない言葉だったから。
「今更照れて隠しても無駄だからな。俺は、ちゃんと全部橘から聞いてるぞ」
そう言われてますます訳がわからなくなる。
…それって、誰か別の人の話じゃないの?
「しかし大変だったな。先週相手が警告無視して脅してきたんだろ?…良かったなぁ。実刑が下ればお前も安心だろ。…しかしいくらなんでも仙台まで追っかけてくとは、相手も執念深いな…」
聞きなれない言葉ばかりなのに、なぜか私は胸騒ぎのようなものを覚えていた。
「…その話、詳しく教えてください」