ウソつきより愛をこめて

「お、お久しぶりです。平泉マネージャー」

「おーおー、元気そうだな。もうお前の研修以来じゃねぇか」

深々とお辞儀をする私の背中を、平泉マネージャーは無遠慮にバシバシ叩いてくる。

関東全域の統括マネージャーであるこの方は、いわば橘マネージャーの直属の上司だ。

歳は私より二周りくらい上だけど、老いを全く感じさせないダンディなおじ様である。

「今日は…お休みのはずでは…?」

「たまたま初詣の帰りに通りかかっただけだよ。しかし大盛況だな」

「じゃあ…本当に偶然お会いできたんですね」

変わらない砕けた雰囲気に私もほっと胸を撫で下ろす。

入社当時の面接からお世話になった人だけに、感慨もひとしおだ。

「そういえばうまくいってんのか~?橘とは」

「…へ…?」

全く予想もしていなかった名前が出て、私は思わず気の抜けた声を出してしまう。

「お前らもよくあれから2年も続いたよなぁ…。で、式はいつ挙げるんだ?」

「あの…仰ってることがよくわからないのですが…」

次から次と出てくる意味不明な話題に、私は笑顔を保ったまま首を傾げていた。

“続いた”とか“式”とか自分には全く関係のない言葉だったから。

「今更照れて隠しても無駄だからな。俺は、ちゃんと全部橘から聞いてるぞ」

そう言われてますます訳がわからなくなる。

…それって、誰か別の人の話じゃないの?

「しかし大変だったな。先週相手が警告無視して脅してきたんだろ?…良かったなぁ。実刑が下ればお前も安心だろ。…しかしいくらなんでも仙台まで追っかけてくとは、相手も執念深いな…」

聞きなれない言葉ばかりなのに、なぜか私は胸騒ぎのようなものを覚えていた。

「…その話、詳しく教えてください」

< 171 / 192 >

この作品をシェア

pagetop