ウソつきより愛をこめて
「橘が犯人を突き止めたのは、半年くらい経ってからか?なんでも…大学時代の同級生だとか言ってショック受けてたな。知り合いだから、いきなり警察に言うのは躊躇って、何度か本人に直接注意してたみたいだけど、全く無駄だったみたいだな」
「…それから、家に待ち伏せとかされてたんですか?」
「多分な。行為がエスカレートしていくに連れて、橘もお前のことが相手に知られるのが怖くて、慎重に会ってたんじゃないのか?」
そう言われて、私はやっと気づく。
会いたい時に会えなかった理由。
家にすら、呼んでくれなかった理由。
それが全部、私をストーカーから守るためだったっていうの―――?
「そ、そんなの…」
「勝手に車のキー盗んだり、店に押しかけて随分長いこと拘束されたりしてたみたいだぞ。…客として来られたら、あいつも無碍には出来なくて大変だったらしい」
その話を聞いた私は、一人の人物が頭に浮かび背筋が凍りつきそうになった。
忘れもしない…クリスマスの夜の…あの人。
あんなキレイな人がストーカーだっていうの?
嘘とは思えないほど流暢に、橘マネージャーのこと話してたのに。
あの人に「彼女はいない」って言っていたのは…私に、危害が及ばないようにするためで。
助手席に乗ったのも、彼女の…勝手な行いだった?
「でも一年ぐらいそんな状態が続いて、橘も我慢の限界だったんだろう。ようやく警察に相談して、相手に接近禁止命令が出たんだ。あの時はやっと開放された気分だって言ってたな」
もう、聞いているのが辛くてしかたなかった。
私はその頃彼がそんな目に合ってることも知らず、勝手身体目当てだって勘ぐってひとりで傷ついて。
そんな彼に一方的に別れを突きつけて、何も告げることなく仙台に向かってしまった。