ウソつきより愛をこめて
スマホのディスプレイに彼の名前を表示しただけで、涙腺が刺激される。
いくらかけても繋がらないそれを握り締めながら、私は逸る気持ちを抑えてタクシーに乗り込んでいた。
平泉マネージャーの話では、まだ彼は東京に戻っていないという。
詳しくは分からないが、二年前彼を散々苦しめたストーカーが警告を無視して脅迫行為を行い、帰って来る手はずがだいぶ足止めを食ってしまったらしい。
だから、マンションも引っ越したの?
彼の性格上、また自分一人でどうにかしようとしたに違いない。
今思い起こせば、私と寧々を絶対に夜中二人で歩かせようとはしなかった。
あの時は、ただ心配してるんだろうなってぐらいにしか思わなかったのに。
彼はどこかで、またつけ狙われる予感があったのかもしれない。
…どうして何も言ってくれなかったの。
こうやって秘密にされて知らないうちに守られても、全然嬉しくない。
(お願いだから、電話に出て…)
祈るように手を組みながら、額に親指を押しつける。
脅迫って何をされたの?
橘マネージャーの身には、何もなかったの?
不安に押し潰されそうな思いで、彼の無事を願う。
東京駅に着くまで鳴らし続けた電話は、ただの1度も繋がることはなかった。