ウソつきより愛をこめて

「…すみませんっ…」

余裕がなくて電光掲示板やホームの案内ばかり見ている私は、行く先々で前から来た人にぶつかってしまう。

謝ってもみんな私には一瞥もくれず、足早に過ぎ去っていった。

どこに向かえばいいのかわからなくなってしまった私は、館内の案内図を頼りにホームをひたすら歩き回ってばかり。

(もうやだ、なんで…こんな時に迷うの?)

早く帰りたいという思いが、余計な焦りを生み出す。

その時ちょうどかかって来た電話に気づいて、私は思わず小さな声をあげていた。

(…橘マネージャーだ!)

ガヤガヤと煩い人混みを抜けて、私は壁際へ方となだれ込む。

通話のボタンをタップする瞬間自分の指が震えてることに気がついて、大きくその場で息を吐き出していた。

「も、もしもし、あの…!」

「…―――ゆ、うきか?」

人が密集していて電波が悪いのか、声がよく聞き取れない。

「私…っ、これから新幹線に乗って仙台に帰ります…!帰ったら、話したいことがあって…」

「…、―――いい」

「え…?」

「来なくていい」

「……!」

今まで聞きにくかった声が急にクリアになり、彼がそう告げてきたのを私ははっきりと聞いてしまう。

そのままブツっと通話が切られて、私は放心状態のまま壁に頭をもたげていた。

来なくていいって…もう会いたくないってこと…?

やっと状況を理解できた瞬間、目頭がじんわりと熱くなる。

私はもう、話すら聞いてもらえないんだ―――。

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