ウソつきより愛をこめて
「―――リカ!」
なんだか遠くの方から、橘マネージャーの声が聞こえる気がする。
ああ…ついに、幻聴まで聞こえるようになってしまった。
こんなに後悔するくらいなら、形振り構わずあの人の胸に飛び込んでいけば良かったのに。
「……エリカっ!」
「……」
今度ははっきり聞こえたその声に、壁に手をついたまま後ろを振り返る。
「橘…マネージャー…?」
…嘘…でも絶対聞こえた。
人が多すぎて、よくわからないけど。
私があの声を間違えるはずない。
こんなに混雑した場所では、仮にいたとしても、彼の姿を見つけるのは困難だろう。
それでも私は声が聞こえた方向だけを頼りに、雑踏の中を弾き飛ばされそうになりながら前に進んでいく。
「…しょ、…翔太ぁ…っ!」
周りの目を気にすることなく、涙で頬を濡らしながら彼の名前を呼ぶ。
ごめんなさい。
もう、勝手にいなくなったりしない。
だから…。
「…翔太ー…っ!!」
一際大きく声を張り上げた瞬間、私は後ろ手に腕を引かれていた。
その刹那、愛くて爽やかな香りが私を包み込んでくる。
「…見つけた」
心から安堵したような、低くて深みのある声が私の耳元で囁かれる。
子供のように泣きじゃくっている顔を見られたくなくて、私は彼に背を向けたまま両手で目元を覆っていた。