ウソつきより愛をこめて
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「何やってんだ。早く入れよ」
「……」
完全に萎縮している私は、翔太の後に続きたどたどしい足取りで部屋の中に入っていく。
初めて入った彼の部屋はほんのりタバコと香水の匂いがして、なんだか妙に私の心をざわつかせた。
「そこらへん、適当に座ってろ」
私の住んでる家より断然広いリビングには、黒を基調とした家具がセンス良く配置されていて、まるでモデルルームみたいだなと感心してしまう。
なんだか堂々と真ん中に座る気にはなれなくて、私は大きいコーナーソファーの隅っこの方に身を寄せていた。
あのあと東京駅からタクシーで移動させられたと思ったら、着いたのはなんと翔太のマンションで。
明日の初売りに備えて早く帰りたいと訴えた私の意見は却下され、こうして最終の新幹線の時間までここに留まることになってしまった。
(こんな家賃高そうなとこ…よく住めるな)
私は場所さえ知らなかったのに、あのストーカー女は知っていたのかと思うと無性に腹が立ってくる。
…そういえば、そのことについてはまだ何も聞いてない。
コーヒーを持ってきた翔太にじっと無言の圧力をかけていたら、ふいに肩を抱き寄せられてしまった。