ウソつきより愛をこめて
「嫌です。お断りします」
「おいエリカ…!」
「今度名前で呼んだら、セクハラで訴えるから」
今まで以上に強気な発言をした私に、橘マネージャーは信じられないものでも見たような目を向ける。
女なら誰でもあなたの言うことを聞くわけじゃない。
橘マネージャー程のレベルの男なら、どうせ引く手あまただろう。
勝手に勘違いしてるのをわざわざ私が正す必要も感じない。
…むしろ少しは罪悪感を抱えて生きた方がいいと思う。
「助けてくださってありがとうございました。以後気をつけます」
なるべく冷たい態度をとって、私は彼に一礼する。
「仕事以外では、もう私に関わらないでください」
私たちの周りの空気がピンと張り詰めているように感じた。
「エリ…、いや結城」
「お疲れ様でした」
寧々が後ろを向いた私の背中越しに、橘マネージャーへ向かって控えめに手を振っている。
…ママ以外の人に懐くなんて珍しくて、私は少し面白くなく感じた。
あの人になんて愛想振りまく必要ないのに。
「…んなの…はいそうですかって、見逃せるわけないだろ」
彼が苦しげに呟いた言葉が、私の耳に届くことはなかった。