ウソつきより愛をこめて
第三章 優しい掌の記憶
「イケメンなんて、この世から滅びろー!」
入浴後にビールを一杯ひっかけながら悪態をつき続ける私に、美月が隣から生温かい視線を送ってくる。
寧々とお風呂に入って一時間くらい遊んでいたら、ちょっとのぼせてしまった。
「…もっと服着なよ」
「いーの!だって暑いし!アパレルやってんだから、季節は常に先取りしなくちゃ」
「じゃあ次から夏物着て出勤してきたら」
パイル地のルームウェアは、キャミとショートパンツのセットアップ。
今年の夏にヘビロテしていたものを今着るのはどう考えても変だけど、お酒と相まって火照った身体にはそれがちょうどよかった。
「エリカ、冗談はこの辺でおしまいね。…橘マネージャーと一体何があったわけ?」
「…え、なんでわかんの。あなたエスパー?」
「いやいやいや。帰ってきてから、あんたずっと不機嫌だったし。寧々ちゃんがつけてたマフラー、橘マネージャーの持ってたやつだよね?まさか一緒にいる時会っちゃったわけ?」
「…うん。なんかいきなり結婚迫られた」
「………は?」
それまで半分聞き流すように会話していた美月の目の色が急に変わる。
「寧々が私の子供だって嘘ついたら、あの人自分の子供だと勘違いしたみたいでさ」