ウソつきより愛をこめて
「…あの人普通じゃないし。例えば私じゃない他の女が同じこと言っても、責任とって結婚するでしょ」
「本当に、そう思うの?」
美月に真剣な目でそう問いかけられて、私は目線をフローリングの床に落とす。
橘マネージャーにとって一番大事なものは、昔から仕事だから。
子供とかそういうきっかけがない限り、結婚なんて面倒で考えもしないだろう。
「もういいから!つまんなくなってきたし、この話は終わりにしよ」
「…エリカ…」
「仕事以外で関わらないでって釘さしておいたから大丈夫だよ。あの人も形だけは誠意を見せようとしんだろうし。ヘルプを終えて帰るまでには、様子を見て本当のこと話すから。…ちょっと間だけ、昔の仕返しに意地悪させて」
もし寧々が私の子じゃないって知ったら、彼は一体どんな顔をするだろう。
結婚を申し込んだことは忘れてくれって、子供のためにしたことだったんだって、そうはっきり言われるのだろうか。
そんなことを考えていたら、急に寒気がしてきて私は更にお酒を煽った。
熱い身体に反比例するように、心がどんどん冷えていく。
本当は怖いんだ、今も昔も。
もし面と向かってあの強い瞳に拒絶されたら。
…今度こそ私は立ち直れなくなってしまうような気がする。