ウソつきより愛をこめて
「…電話、は…」
充電器の白いコードを引っ張って、なんとかスマホを手元に手繰り寄せる。
あの子は今日遅番だから、運がよければまだ家を出てないはず。
微かな希望を胸にコールを鳴らしたけど、美月が出る気配は全くなかった。
(ヤバイ。どうしよう…)
私には、他にこんなこと頼れそうな知り合いが一人もいない。
どうにか確認してくれることを願い、液晶をタップして彼女にメッセージを送る。
[たすけて。しぬ。かぜひいた]
変換する余裕がないけど、これなら切迫した状況が伝わるはずだ。
「ごめん寧々、もうちょっと待っ…」
ふとベッドの方に目を向けたけど、そこにさっきまでいたはずの寧々の姿が見当たらない。
「あれ…、寧々?どこ…?」
辺りを見回してみれば、リビングの方からとたとたと可愛い足音が聞こえて来る。
「……え?」
「はい、ママ」
そこにはパジャマ姿の寧々が、両手に抱えきれないほどの料理を一生懸命運んでいる姿があった。
「…寧々?」
目の前にはお皿のプレートに盛りつけられたたくさんの果物たち。
それが食べられないプラスッチックのものだと分かっても、私は震えるほどの感動を覚えていた。
「どーじょっ!」
…そういえばマリカの置いてったおもちゃの中に、このおままごとセットが入ってたっけ。
こんな小さな子でも、ママが弱っていたら助けようとするんだ。
思うように動けない自分の不甲斐なさと、寧々の温かい優しさになんだか涙が出そうになってしまった。