ウソつきより愛をこめて

まさか泊まるつもりじゃないよね…。

後ろから疑念の眼差しを向けるも、彼は寧々との会話に夢中で全く気づいていない。

自分の荷物全然持ってないから、それはないか。

家事もやってくれるし、寧々もなついてるから…ただそれだけの理由。

彼がこれからいなくなることにどこかがっかりしてる自分に、そう言い訳した。



「冷蔵庫にプリンとゼリー入ってるから、食えそうになったらなんでもいいから口に入れろよ。あと脱水にも気をつけろ。スポーツドリンクも買っておいたからな。お粥は明日の朝、温めるだけで食えるから。さっき雑炊風に味つけ直したから寧々も食えると思う」

「…オカンか」

あまりのいい主婦ぶりについ心の声が口に出てしまう。

「さっきみたいに素直にお礼は言えないのか?」

「ありがとうございます。大変助かりました」

寧々と一緒に玄関でぺこりとお辞儀した私を、橘マネージャーはじっと見つめていた。

「…?なにか」

「あ、いや…その…」

心なしか頬の辺りが赤い気がする。

彼は掌で自分の口元を隠すように覆っていた。

「俺に触られても、平気か?」

< 57 / 192 >

この作品をシェア

pagetop