ウソつきより愛をこめて
顔を歪めた橘マネージャーが、よろよろと後ずさる。
「…は、腹にグーはねぇだろ…」
「黙れ!色魔!」
寧々のことだと思って油断した。
今日の見返りにこんなことを要求されるくらいなら、いくらでもお金を払ってやるのに。
「抱きしめていいって言ったのは、お前だろ」
「はぁ…本当に最低。風邪がうつってしまえ」
二年見ない間に、随分軽くなったもんだ。
彼女でもない女に、簡単にこんなことしようとするなんて。
「私はそういうの無理だから。どうぞ他を当たってください」
セフレみたいな関係は、もう昔でこりごり。
あの頃と同じように、気軽にそういうことが出来ると思ったら大間違いだ。
「ほら寧々、さっさとバイバイして」
「しょーちゃん!バイバイ!」
「バイバイ寧々。寂しくなったらいつでも隣に来いよ」
「…隣…?」
「ああ。俺、昨日からこの部屋の隣に住んでんの」
嘘だと思って外に出ると、橘マネージャーは本当に鍵を開けて隣の部屋に入ろうとしている。
「ありえない…」
勝ち誇った笑いを浮かべる彼の姿を、私は突っ立ったまま複雑な思いで見つめていた。