ウソつきより愛をこめて
「…寧々頼む。痛い痛いの飛んでけーってやつ、俺にやって?」
「とんでけーっ?」
橘マネージャーは私に踏まれた足をさすりながら、擦り寄ってきた寧々に朝からくだらない事をさせている。
「こういうことは、もう絶対にやめてよね」
威嚇して毛を逆立てている猫のような私に、彼は眉根を寄せながら反抗的な態度をとっていた。
「タバコ吸おうとしたら、隣から寧々の声が聞こえて心配になったんだよ。お前こそ、寧々から絶対目離すな」
「ほんの一瞬でいなくなったの!寧々はベランダの柵に全然届かないから、そんなに心配することもないでしょ」
「バーカ。子供ってのは、予測のつかない行動をする生き物なんだよ。手すりに届かないくらいで安心すんな」
「……」
橘マネージャーの発言に、私は訝しげに目を細める。
そういえばこの人、子供嫌いに見えて意外と面倒見が良かったっけ。
おむつ替えも割とスムーズにこなしてたみたいだし…。
もしかしたらすでに隠し子の一人や二人くらい、どこかに存在するのかもしれない。
「なんだよ。その顔は」
「…いえ。独身にしては、あまりにも子供の生態についてお詳しいようなので」