ウソつきより愛をこめて
第五章 宵は熱に溺れて
「早期クリアランスセールか…」
「お、そうそう。去年好評だったから今年もやるって、本部から支持来てるだろ?」
マウスを操作していた私の手を包み込むように、橘マネージャーが上から手を被せてくる。
「なんだ。もう品番リストも来てるのか。どうする?該当商品、一応裏にストックしとくか?」
「……!」
何気ないその行為に、身体中を巡る血液の温度が一気に上昇した。
私はその様子が顔に出ないよう、必死で平静を繕う。
この天然女たらし…!と叫びたくなるのを、私は必死で我慢していた。
これくらいで反応していたら、この人を喜ばせるだけだ。
「おーい店長、どうすんだよ」
「…先週から売り場に出てるけど、まだ全然動いてないみたいだから。とりあえず様子見でいいかと…」
「ふーん…」
横から顔を覗き込まれている気配がするけど、私は決してウインドウから目を離そうとはしない。
近い、なんか近すぎる。
この人さっきから、私のパーソナルスペースに侵入しすぎだ。
「気が合うな、俺も全く同じ意見」
質のいい低音の声が私の耳元をくすぐり、背筋に緊張を走らせる。
わかってやってるのかなんなのか、そこが橘マネージャーの卑怯なところだ。
こういうのを、俗に意識しまくりの状態って言うのだろう。